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仙台高等裁判所 昭和30年(ナ)17号 判決

原告 安斎久吉 外九名

被告 宮城県選挙管理委員会

補助参加人 佐藤暉雄 外二名

主文

原告等の請求を棄却する。

訴訟費用は、被告補助参加人等の参加によつて生じた分を含めて全部原告等の負担とする。

事実

第一、原告等代理人の請求の趣旨、及び被告代理人のこれに対する答弁。

原告等代理人は「昭和三十年四月三十日執行の仙台市長選挙につき、その選挙及び当選の効力に関し訴願人佐藤暉雄外二名からした訴願に対し、被告が昭和三十年十一月四日した裁決はこれを取消す。訴訟費用は被告の負担とする」との判決を求め、被告代理人は請求棄却の判決を求めた。

第二、原告等代理人の請求の原因、並びに被告及び被告補助参加人等の主張に対する陳述。

一、原告等は昭和三十年四月三十日執行の仙台市長選挙の選挙人である。右選挙においては候補者岡崎栄松、島野武、高橋三郎の三名が立候補し、開票の結果、投票総数十六万二千四十八票、有効投票数十五万七千四十五票、無効投票数五千三票とされ、右有効投票のうち岡崎栄松の得票数六万四千六百四十五票、島野武の得票数六万四千八十六票、高橋三郎の得票数二万八千三百十四票で、得票数最高位の岡崎栄松が当選人と決定されその旨告示された。右選挙及び当選の効力に関し本件被告補助参加人等から昭和三十年五月十四日仙台市選挙管理委員会に対し異議の申立をしたが、同年六月三十日右異議の申立を棄却する旨の決定があり、更に同年七月十三日被告に対し訴願を提起したところ、被告は同年十一月四日右決定を取消し右選挙を無効とする旨の裁決をし、同日その旨を告示した。

二、しかし被告のした右裁決は次の点において違法である。

(一)  訴願の違法について。

選挙の効力及び当選の効力に関する争訟手続は、争訟の目的が異り公職選挙法上別個に規定されているから別個にさるべきものであつて、異議の申立又は訴願の提起において一個の申立で同時に選挙の効力及び当選の効力を争うことは許されない。本件において異議の申立は、一個の申立で同時に両者の効力を争うものであり、これを基本とする訴願の提起も同様であるから、本件訴願の提起はこの点において不適法として排斥さるべきものである。しかるに本件裁決はこの点を看過した違法がある。仮に本件訴願の提起が第一次的に選挙の効力を争い、予備的に当選の効力を争う趣旨であるとしても、このような予備的申立は争訟手続において法の予想しないところであるから許されないものといわなければならない。又仮に本件裁決は第一次的申立についてだけ判断し、予備的申立については判断しなかつたものであるとしても、本件裁決が選挙の効力及び当選の効力に関する争訟手続の区別を看過して漫然審理した違法はこれを免れるものでない。

(二)  審理不尽の違法について。

被告は本件不在者投票に関する違法の有無を審理するに当り、自ら個々の具体的投票に関し検討せず、単に事務当局の言に盲従し、又仙台市選挙管理委員会に対し弁明の機会を与えないで、全く独断的に不在者投票に関する違法ありとして本件裁決をしたのであつて、この点において本件裁決は被告がその職権を抛棄し審理を尽さないでした違法なものである。

(三)  不在者投票について。

本件不在者投票に関しては違法の点はない。しかるに本件裁決がその認定を誤り選挙無効の事由があるものとしたのは違法である。この点に関する被告等主張の違法事由については次のとおり陳述する。

不在者投票の制度は選挙権行使の条件を緩和し有権者をして漏れなくその権利を行使させるための制度である。右は当初衆議院議員選挙法に採用されたが、昭和十年に至り府県制第十九条の二、市制第二十五条の四、町村制第二十二条の四により地方公共団体の選挙にも採用され、次で地方自治法及び公職選挙法に移植されてその適用範囲は漸次拡大された。これに関する諸規定は、いかなる者に対して不在者投票を許すか及びいかなる方法で行わせるかの二点について定められたのであり、文書の様式も簡略化されているのであつて、右制度の沿革に徴しても、これらの規定の解釈適用については「一人でも多く選挙権を行使させる」という観点に立つてさるべきものである。この点に関する被告等の所論は失当である。

公職選挙法(以下法という。)第四十九条、同法施行令(以下令という)第五十条第一項には、選挙人が法第四十九条第一号乃至第四号に掲げる事由の一によつて選挙の当日自ら投票所に行つて投票をすることができない場合においては、その旨を証明して、投票用紙及び不在者投票用封筒の交付を請求することができる旨定めているが、右の請求は、郵便をもつてする場合(令第五十条第四項に規定する船長病院長等が選挙人に代つて請求する場合についても同じ)を除き、直接にする場合においては、文書をもつてすることを要するものではない。そして令第五十二条第一項には、不在者投票の事由に該当する旨の証明は同項第一号乃至第四号に掲げる証明者の証明書を提出してしなければならない旨定めているが、同条第三項には第一項第一号の証明者のない場合又は正当な事由によつて右証明書を提出することができない場合においては、その旨を疎明すれば足りる旨を明定しているのであつて、右疎明の方法は制限されていないのであるから、これも文書をもつてすることを要するものではない。しかも不在者投票の事由が極めて顕著であるときは、その証明又は疎明の必要がなく、又不在者投票の事由自体により証明書を提出することができないことが明白である場合においても同様にその疎明を要しないものというべきである。

本件不在者投票について、仙台市選挙管理委員会が、あらかじめ「不在者投票用紙及び同封筒の請求」と標記した請求書に証明書欄を設けたもの(例えば乙第一号証)及び「不在者投票用紙及び同封筒の請求書」と標記した請求書に疎明の事由欄を設けたもの(例えば乙第六十一号証)を用意して置き、直接請求により投票用紙及投票用封筒を交付した選挙人のすべてに対しそれぞれこれに記載して提出させ、なお法定の証明書を提出した場合においては右証明書欄附の請求書にこれを添附させる方法を採用していたことは、これを認める。但し疎明による請求の場合において、たまたま右疎明の事由欄附の請求書の用紙が不足したため、その代りに証明書欄附の証明書を使用したこともある。しかしいずれの場合においても右の請求書は請求又は疎明のための文書ではないのであつて、このような請求書を提出させた趣旨は、専ら同法施行規則第十四条に規定する「不在者投票に関する調書」を作成する資料とするために過ぎないのであり、これを法令上必要な文書として作成提出させたものではない。しかして右請求書を提出させた順序は、先ず係員において当該請求者につき選挙人名簿と対照し、次にその不在事由につき証明書を提出した者についてはその証明書により、又証明書に多少の不備のあるものは疎明を併せ採用し、又証明者がない場合又は正当な事由によつて証明書を提出することができない場合においては、その事由及び不在事由を尋ねて口頭でその疎明をさせ、これによりそれぞれ不在者投票の要件に該当することを認めた後、その請求者に対し投票用紙及び投票用封筒を交付し、これと同時に右証明書を請求書に添えて提出させ又は右疎明の要領を右請求書に記載して提出させたものである。従つて右証明書に多少の不備があり、又は請求書の記載が省略され若しくは十分でないものがあつても、それだけによつて右交付手続に違法があるものとはいわれない。

本件選挙において不在者投票の数が二千七百六十一件にのぼることはこれを認める。被告等は右のうち九百二十九件につきその投票用紙及び投票用封筒の交付の手続に違法がある旨主張するが、乙第一乃至第九百二十九号各証(但し第二十六乃至第二十九号証の各一乃至四を除く)の請求書が右請求書に該るものであることはこれを認めるけれども、被告等の主張は右請求書の記載を根拠とするものに過ぎない。即ち被告等は本件不在者投票二千七百六十一件のうち、請求書に適法とされる証明書を添附して提出したものを除き、その余を殆ど違法であるとするものである。しかし右請求書提出の趣旨は前に述べたとおりであるから被告等の右主張は当らない。

これを右九百二十九件につき、被告等の主張に対応して述べると、次のとおりである。

(1) 適法な証明書を提出しないとする二十六件について、

(イ) 証明書に全く記載のないもの(乙第一乃至第八号証)、八件

右は請求書に設けられた証明書欄が全く空白であることはこれを認める。しかし右はいずれも法第四十九条第二号該当者として、本人の口頭の疎明により投票用紙等を交付したもので、証明書欄は必要のなかつたものである。

(ロ) 証明者の住所、職氏名印を記載すべき欄下に何等の記載のないもの(乙第九乃至第十九号証、第四十六号証) 十二件

右は請求書の証明書欄の右の点に何等の記載のないことはこれを認める。しかし右のうち乙第九乃至第十一号証、第十四乃至第十九号証の請求書の九名は、いずれも選挙事務従事者であるが、たまたま証明書の用紙が切れ選挙事務従事者であることの証明書の交付を受けてこれを提出することができなかつたので、右の者等がその旨を口頭で疎明し、一方係員においては事務分担表により右の者等が選挙事務従事者であり且その所属投票区において投票することができない者であることを十分承知していたので、投票用紙等を交付したものである。選挙事務従事者については証明書を要しないとして取扱つたものではない。

その他の三名は法第四十九条第二号該当者として本人の口頭の疎明により投票用紙等を交付したもので、証明書欄は必要のなかつたものである。

(ハ) 証明者の住所、職氏名印を記載すべき欄下に記載あるも証明者と認められないもの(乙第二十乃至第二十四号証) 五件

右は請求書の証明書欄の右の点に事務従事者との記載があるだけであることはこれを認める。しかし右はいずれも選挙事務従事者であつて前同様の理由により、証明書欄は必要のなかつたものである。

(ニ) 証明者の住所、職氏名印を記載すべき欄下に被証明者(選挙人)が勤務する場所と想像される「仙台スレート工業所」という名称の記載はあるが、住所氏名の記載はなく且押印のないもの(乙第二十五号証) 一件

右は請求書の証明書欄が空白で、その欄下に右記載があるだけで、住所氏名の記載がなく且押印のないものであることはこれを認める。しかし右は法第四十九条第二号該当者として本人の口頭の疎明により投票用紙等を交付したもので、証明書欄は必要のなかつたものである。

(2) 指定病院長の請求書その他の文書を欠くとする四件について、

(イ) 指定病院長の請求書及び証明書のないもの(乙第二十六号証の一乃至四) 一件

右の深瀬松雄に関する指定病院長の請求書及び証明書は存在し、「病院等不在者投票管理者よりの請求書綴」(甲第五号証の一、二)中に編綴されている。

(ロ) 他町村役場において投票した者の請求書及び証明書のないもの(乙第二十七乃至第二十九号証の各一乃至四) 三件

右三件の請求書及び証明書も存在し、仙台市選挙管理委員会において保管(甲第六乃至第八号証の一、二)している。

(3) 証明書は添附されているが、その記載に重大な瑕疵があつて適法な証明書と認められないもの及び法定の不在事由に該らないことが明白なものとする三十件について、

(イ) 不在期間に選挙の当日が含まれていないもの(乙第三十乃至第三十三号証の各一、二、第三十四号証、第三十五、六号証の各一、二) 七件

右は証明書記載の不在期間に選挙の当日が含まれていないことはこれを認める。しかし右はいずれも法第四十九条第二号該当者であつて、本人の口頭の疎明により選挙の当日も不在であることが明かであつたので、証明書記載の不在期間に拘泥せず、投票用紙等を交付したものである。

(ロ) 国有鉄道乗務員で勤務時間の関係からすれば当日投票の可能なもの(乙第三十七乃至第三十九号証の各一、二) 三件

右は当該証明書のほか、いずれも本人の口頭の疎明により、その住所、所属投票所及び勤務場所間の距離並びに勤務の種類等を勘案し、勤務場所到達前に投票することは不可能と認められたので、右疎明をも併せ採用して、投票用紙等を交付したものである。

(ハ) 選挙人は国有鉄道の仙台市内の駅に勤務する駅員(乗務員ではない)で、選挙の当日は勤務日に該るが不在事由のいずれにも該当しないもの(乙第四十、第四十一号証の各一、二) 二件

右は証明書の記載だけによれば右のように選挙の当日仙台市の区域内に現在するように見えるが、右両名とも徹夜勤務で投票のためその職場を離れることができないものであるから、実際上区域外にある場合と何等異るところがない。よつていずれも本人の疎明をも併せ採用して、投票用紙等を交付したものである。

(ニ) 証明書に証明者、被証明者の記載のないもの及び無権限者の証明にかゝるもの 六件

右のうち、

(A) 被証明者の住所氏名の記載のないもの(乙第四十二号証の一乃至三、第四十三乃至第四十五号証の各一、二) 四件

右の事実はこれを認める。しかし右はいずれも選挙人が自ら証明書を持参呈示し且請求書に添附して投票用紙等の交付を請求したものであるから、被証明者がその選挙人であることは明かであつて、その証明力に何等欠けるところがない。

(B) 証明書の証明者の欄に職名と想像される文字だけ記し、住所氏名の記載なく且押印のないもの(乙第四十七号証の一、二) 一件

右の証明者の欄に「仙台鉄道管理局長町機関区長」と記載しただけで証明者の住所氏名の記載も押印もないことはこれを認める。しかし右は証明書のほか、選挙人の疎明をも併せ採用し法第四十九条第二号該当者として取扱つたものである。

(C) 証明者が無権限者であるもの(乙第四十八号証の一、二) 一件

右は証明書によつて投票用紙等を交付したものではない。即ち右選挙人馬場昌は宮城県柴田郡槻木町選挙管理委員会の選挙事務従事者であるが、選挙の当日(昭和三十年四月三十日)同町議会議員選挙があるとして同委員会委員長の証明書(乙第四十八号証の二)を提出して本件選挙の投票用紙及び不在者投票用封筒の交付を請求した。ところが右証明書は同年四月二十三日執行の宮城県議員選挙に関するものであつたので、調査をし、本人の申立の真実であることを認め、請求書(同号証の一)に附記し、仙台市選挙管理委員会委員長の押印を得て右投票用紙等を交付したものである。従つて仙台市選挙管理委員会の委員長が証明者として不在事由の証明をしたものではない。

(ホ) 法定の不在事由に該当しないもの(乙第四十九乃至第六十号証の各一、二) 十二件

右は証明書に不在事由として「会社慰安旅行」に出席し旅行する旨記載してあるものである。しかし近時勤労大衆が能率向上のためいわゆる「リクリエーシヨン」として団体を作り旅行等の行事を行つていることは周知の好ましい社会的風潮であるし、営業上の理由でこれを行うことも多い。従つて右は法第四十九条第二号の不在事由に該当するものと解すべきである。右のうち被告主張の十件(乙第五十一乃至第六十号証の各一、二)の証明書に被証明者の記載のないことはこれを認める。しかし右は前記(3)の(ニ)の(A)と同様いずれも本人が自ら証明書を持参呈示し且請求書に添附して投票用紙等の交付を請求したものであるから、その証明力に何等欠けるところがない。

(4) 証明書の提出がなく又は証明書を提出することができない場合に要するその旨の疎明を欠くとする八百六十九件(乙第六十一乃至第九百二十九号証)について、

右のうち請求書に不在事由等の記載を欠くもの一件(乙第八百七号証)のあることはこれを認める。しかし右は不在者投票終了日の前日に当り請求者が殺到しこれを記載させる暇がなかつたもので、不在自由等を確めないで請求に応じたものではない。その他については、証明書を提出することができない場合の疎明も不在事由の疎明も、請求書の記載だけで一応認められるものである。殊に仙台市においては市役所及びその支所において市長の旅行証明及び不在証明の証明書を発行しておらないので、大部分は当初から証明書を提出するに由なく従つて請求書記載の用務又は事故そのものが一応証明書提出不能の事由となるのである。しかも係員としては請求書の記載だけによつて判断したのではなく各本人の説明を聴取して疎明させた上その適否を判断したのである。従つて被告等主張の請求書記載の「花見」「花見招待」「遊覧」「参拝」等も止むを得ない用務と認められたものである。又乙第九百二十七号証の請求書の「滞在地宮城県苦竹地区」とは仙台市外の苦竹地区であり、同第九百二十八号証の請求書の不在事由「財団法人原町病院勤務のため」は仙台市内の病院に勤務するものであるが職務の性質上仙台市の区域外において勤務すると異らないし、同第九百二十九号証の請求書の旅行先「宮城県仙台市」とあるのは仙台市外の「外」の字を落したもので、いずれも不在者投票の事由に該当する。

なお、疎明の採否は選挙管理委員会の委員長の決定するところで、本来その専権に属するものであるから、委員長において疎明ありと判断し投票用紙及び投票用封筒を交付し、しかもそれによつて不在者投票の行われた以上、その疎明を争い右交付手続に違法があるものということはできない。仮に右交付手続に違法があるとしても、それはそれによつて行われた投票の数が確定する限り、その個々の投票の効力に影響を及ぼすものに止り、選挙無効の事由となるものではない。

以上によつて被告等の主張はすべてその理由のないものである。

(四)  選挙期日の告示について。

選挙の期日の告示は、被告等主張のとおり仙台市選挙管理委員会が昭和三十年四月三十日印刷、同年五月一日発行の仙台市公報にこれを掲載したことは認めるが、その他の事実は否認する。

本件市長選挙は昭和三十年法律第二号地方公共団体の議会の議員及び長の選挙期日等の臨時特例に関する件第一条及び第四条により公職選挙法第三十三条第一項に関係なく全国一齊に選挙期日を昭和三十年四月三十日と定められた。そこで仙台市選挙管理委員会は右選挙期日の十五日前である同年四月十五日同委員会規程の定めるところにより、仙台市公告式条例に準拠し、仙台市役所前掲示場に選挙期日を掲示して告示したのである。

元来公職選挙法上告示の方法について何等規定するところがない。従つて告示の方法は当該選挙管理委員会の定めるところによるべきものである。しかるに仙台市選挙管理委員会規程第六章告示の方法第二十二条には、「委員会及び委員長の告示は市の公告式条例に準じてこれを行うものとす。」とあり、仙台市公告式条例第二条第二項には「条例の公布は市役所前掲示場に掲示してこれを行い仙台市公報にこれを掲載するものとする。」と規定している。而して、市の公報に掲載するのは公布又は告示の要件ではなく附随的なものにすぎないのであつて、公布又は告示としては市役所前掲示場に掲示すればその効力を生ずる。このことは仙台市公報発行規程第一条第二項に「仙台市公報は毎月一日、十五日に之を発行する。」第二条に「公報に登載する事項は概ね左のとおりとする。一、条例二、規則三、告示方法云々」と定めてあることに徴するも明かであるから、被告等の選挙期日の告示を欠く旨の主張は理由がない。

なお、仙台市選挙管理委員会は右告示の前後において、河北新報に対し一回、東北日報に対し二回それぞれ有料で選挙期日の新聞広告をなし、或は新聞折込、弘報宣伝車等を利用してその周知徹底をはかつているのであるから、被告等の本件選挙の管理執行が極めて杜撰であつたとの非難はあたらない。

(五)  選挙の当日投票場において投票した選挙人に対する確認並びに投票用紙交付について。

本件選挙に際し、仙台市選挙管理委員会が予め入場券を有権者の手許に交付しておき、選挙当日これを持参せしめ、各投票所の名簿対照係が右入場券と選挙人名簿抄本とを対照し、入場券と右抄本との間に割印を施したことは認めるけれども、七百七十六件に及ぶ名簿対照手続上の瑕疵があるとの点及び過剰投票の存することは否認する。被告主張の入場券が本件選挙に使用された入場券であるかどうかはわからないのである。

投票管理者が投票用紙を選挙人に交付するには、その者が果して選挙人本人であるかどうかを選挙人名簿又はその抄本と対照して確認しなければならないことは被告主張のとおりである。しかしその確認の具体的方法については何等限定されていないのである。令第三十一条第一項も、確認の具体的方法を入場券の提出に限定した趣旨ではない。又選挙権の有無は入場券交付の有無により定まるものではない。従つて、入場券を持参せず、又は他人の入場券、他の選挙の入場券等を間違つて持参した場合においても、住所氏名を自称させて確認し、又は投票立会人が選挙人本人であることを熟知している場合には選挙人名簿に登録されているかぎり投票用紙を交付することができるのである。本件選挙に際しては、名簿対照係は入場券が提出されたときは、これと選挙人名簿と対照して割印をなし、疑わしい場合には住所氏名を自称させる等の方法を採り選挙人名簿抄本に登載されている選挙人本人であることを一々確認して投票用紙を交付したのである。又割印をおとしたものもあるが、前同様確認の手続を経ているのである。

(1) 入場券と名簿に割印のないもの 一一七枚

右は受付繁忙のため割印を脱漏したものであるが、すべて選挙人の確認を経ているものである。このうち八十六枚は再発行の入場券であつて、入場券の再発行については事故係において十分本人であることを確めたうえ再発行しているのである。

(2) 入場券に割印あつて名簿に割印のないもの 七四枚

うち十一件は名簿中県議会議員選挙の際割印する場所に割印の場所を誤つて割印したものである。又二件には割印が認められる。その他については原因不明であるが印肉のつき具合や押印の際の力の入れ方によつて名簿に印影が残らなかつたものと思われる。

(3) 名簿に割印あつて入場券のないもの 七九件

一件については、名簿登載通知用のハガキを持参したものでこれと名簿に割印されている。その他の入場券のないものはすべて紛失したものである。

(4) 入場券二枚あつて一枚にのみ名簿と割印のあるもの 三件

(イ) 一件は同一人が本件選挙の入場券とさきに行われた県議会議員の選挙の入場券とを持参提出したのを誤つて県議会議員選挙の入場券に割印したもの

(ロ) 一件は(イ)と同じく本件選挙の入場券と県議会議員選挙の入場券を提出したので、本件選挙の入場券にのみ割印したもの

(ハ) 一件は入場券紛失のため再発行し、これと名簿と割印したところ、間もなく紛失の入場券を発見し任意提出を受けたもの

(5) 入場券二枚あつてうち県議会議員選挙の分に名簿と割印があり市長選挙の分に割印のないもの 一件

右は被告において(4)の(イ)と二重に主張しているものである。

(6) 名簿に割印二つあつて割印のある入場券一枚のもの 二件

うち一件の割印は一個である。最初上方に割印しかけ、場所が適当でない為更にその下方に割印し直したもの、他一件は最初の割印の全印が殆ど名簿の方になされ入場券にうつらなかつたので押し直したもの

(7) 入場券二枚あつてそれぞれ名簿と割印あるもの 五件

うち三件は再発行の入場券に係るもので、最初再発行の入場券と割印したところ、後に当初発行の入場券が発見提出されたゝめ、更にこれと名簿に割印したものである。その他のものは原因不明である。

(8) それぞれ割印ある入場券二枚あつて名簿に割印一つあるもの 十件

三件については再発行の入場券について割印したものが、その後当初の入場券が発見提出されたので、名簿上のさきになされた割印に重ねて割印をしたものである。その他のものは原因不明である。

(9) 二重に登録された選挙人で他投票区の入場券と当該投票所の名簿に割印あるもの 一枚

選挙人小原恵美子に関するものであるが、名簿調整時においても当該投票区内に住所を有しており二重に登録された事実はない。もつとも名簿には二重登録の附箋が附されているが誤である。又入場券には小原陽子と記載されているが、発行の際誤記したものである。これらの誤が確認できたので、正当本人であることを確認し、右入場券と名簿に割印したものである。

(10) 入場券と名簿に割印の二つあるもの 一枚

最初割印したところ印影が不鮮明であつたゝめ、更にその右側に割印し直したものである。

(11) 名簿に割印なく入場券の裏面に六個の捺印あるもの 一枚

右入場権は選挙人の持参したものではなく、未発行のものに、印判を掃除した際に捺印したものである。

(12) 名簿に「地方選挙権なし」の附箋あるもので入場券と名簿に割印のあるもの 二件

調査の結果 いずれも選挙権のあることが判明したので、入場券を発行のうえ割印し投票させたもので、その際「地方選挙権なし」の附箋を除去するのを忘れたものである。

(13) 県議会議員又は衆議院議員選挙の入場券で割印のあるもの 四七四枚

一枚は本件選挙の入場券をも兼ね発行されたものである。その他は、本件選挙の入場券を紛失したゝめ、又はこれと間違つて持参したので、本人の申出に従い名簿と対照し、本人であることを確認のうえ割印して投票用紙を交付したものである。

(14) 県議会議員又は衆議院議員選挙の入場券で割印のないもの 六枚

右は本件選挙に使用されたものではなく、たまたま本件選挙の入場券に混入していたものである。

以上のとおりであるが、被告等主張の入場券が果して本件選挙に使用されたものかどうかも判然しないのであるから、被告等の名簿と入場券の割印を基礎として、選挙人に対する確認手続に瑕疵ある旨の主張は理由がないものである。

(六)  投票用紙の管理、受払について。

投票用紙の管理及び受払については法に何等規定するところがなく、当該選挙管理委員会または投票管理者に一任されている。そして投票用紙の残数の不足することは選挙の実際に徴し極めて顕著な事実である。又被告は投票用紙の残数について四百二十二乃至三百九十五枚の不足がある旨主張するけれども、その計算方法そのものも確実な根拠に基くものではない。

更に仙台市選挙管理委員会は本件市長選挙及び市議会議員、市教育委員会補欠委員選挙に使用する投票用紙各二十二万一千枚合計六十六万三千枚を一括して宮城刑務所に発注し、これを二回に分け同時に受領したもので、市長選挙の分のみ切離して受領したものではない。従つてこれを一枚一枚計算することは到底できないものであるから、刑務所において五十枚を一束とし、二十束を一包とした千枚包と、右千枚包十個を一包とした一万枚包の二種類に分けたものを包数によつて枚数を点検し、投票所に対しては、千枚未満の数につき五十枚束で計算したほかは、包数によつて計算してこれを配布したのである。右のような状況下においてこのような計算方法を採ることは善良な管理者として注意を欠くものではないから、投票用紙の管理、受払に関する被告等の主張も理由がない。

(七)  投票包の保管、投票の保存について。

法第七十一条には投票の保存義務を定め、令第七十六条第一項には投票処理の方法が定められているけれども、右はいずれも爾後の手続に関するものである。各候補者の得票数の計算、その朗読までの選挙事務が適法に行われ、各候補者の得票数が決定した以上点検済投票を処理する方法を誤り、その保存する方法に欠けるところがあつても選挙の結果を左右するものではないから、これをもつて選挙無効の事由とすることはできない。のみならず令第七十六条所定の封筒とは状袋に限定した趣旨ではなく封を施すに足るものであれば十分である。又投票包の保存にあたつては、施錠設備のある四箇の木箱に収納し各箱とも左右二ケ所に施錠していたのであるから、投票包に多少の破損、不完全な点があつたとしても、投票そのものに異常を生ずる余地は全くないのである。又投票の数が開票録の記載数と一致しない包のあることは事実であるが、それは開票点検の際における計算違というほかないのであつて、もとより仙台市選挙管理委員会の故意又は重大な過失によるものではない。従つて投票包の保管、投票の保存に関する被告等の主張はすべて理由がない。

(八)  投票者実数の把握について。

被告等は、(五)、(六)、(七)において投票者実数の把握が不可能であると主張するけれども、投票録による投票者の総数は十六万二千五十八、開票録による投票の総数は十六万二千四十八、被告及び証拠保全の際の点検による投票の総数は十六万二千八十であつて投票者の総数と投票の総数の差は最大三十二に過ぎない。他方当選人岡崎栄松の得票数は、開票の結果は六万四千六百四十五票、被告の点検の結果六万四千六百六十七票であり、次点の島野武の得票数は、開票の結果は六万四千八十六票、被告の点検の結果は六万四千九十六票で、当選人と次点者との票差は五百五十九票乃至五百七十一票であるから、三十二票の差をもつて本件選挙の結果に異動を及ぼす虞あるものとはいえないのである。

(九)  選挙の公正を害する点について。

法第二百五条に規定する選挙の無効原因である選挙の規定違反とは、いうまでもなく選挙の管理執行に関する明文の規定違反を指すものであつて、特殊な例外として、公職選挙法中の他の規定違反とか、或は直接に明文の規定違反ではないけれども著しく選挙の自由公正を害する事実のあつた場合をいうのである。しかるに本件選挙には既に述べたとおり直接明文の規定に違反する事実もなく、その他に「著しく選挙の自由公正を害する」というような具体的事実は全く存在しないのである。

よつて被告のした前記裁決の取消を求めるため本訴請求に及ぶ。

第三、被告代理人及び被告補助参加代理人の答弁。

一、原告等主張の一の事実はこれを認める。

二、原告等主張の二の点については次のとおり陳述する。

(一)  訴願について。

本件異議の申立及び訴願の提起が、それぞれ一個の申立で同時に選挙の効力及び当選の効力についてされたものであることは、これを認める。しかし訴願人等の主張の趣旨は、第一次的に選挙の効力を争い、予備的に当選の効力を争つたものである。又選挙の効力及び当選の効力に関する争訟手続が公職選挙法上別個に規定されていることはこれを認めるが、右規定は両者の効力について同時に異議の申立又は訴願の提起をすることを禁止したものではなく、他にこれを禁止した規定はない。これを実質上からみても、両者の違法事由に関連性のあることが明白である以上(法第二百九条)これに基いて第一次的に選挙の効力を、予備的に当選の効力を争い得るものとするのが相当であり、争訟の経済上からみてもこれを許し得ないものではない。よつて本件裁決に原告等主張の違法の点はない。

(二)  審理不尽について。

原告等主張の(二)の点はこれを否認する。即ち被告は本件選挙の管理執行の全般につき審理検討し具体的に吟味を加えて判断したものである。又被告が市の選挙管理委員会の弁明を拒否したことはない。なお右弁明を求めなくても裁決手続の違法をきたすものではない。

(三)  不在者投票の違法について。

不在者投票の制度は、選挙の当日投票所に行つて投票をする原則に対する例外措置であつて、法第四十九条、令第五十条以下に厳格な実体的及び手続的規定を設けている。それは不在者投票がただに例外措置であるからだけでなく、選挙の当日投票所においてする投票の場合に比し、その投票の期間、管理、投票の方法及び場所等の点において不正行為の介入する余地のあるところからこれを未然に防止して選挙の自由公正を確保するためである。従つてこれらの規定の解釈適用については恣意を許さず厳格にしなければならない。

不在者投票に関する一連の手続中、その基本となる投票用紙及び投票用封筒の交付に関する手続、即ちその交付の請求を受けた場合にこれに対する審査、適否の認定及び交付等の手続に関する規定(法第四十九条、令第五十条乃至第五十四条)は選挙の管理執行に関する規定である。法第四十九条はその第一号乃至第四号に不在者投票の事由を掲げているのであつて、請求者はその事由に該当する旨を令第五十二条第一項第一号乃至第四号に定める証明者の証明書を提出して証明することを要するのであり、これが原則である。疎明が許されるのは、令第五十二条第三項により、同第一項第一号の証明者がない場合又は正当な事由によつて右証明書を提出することができない場合にその旨が疎明されることを前提とする。これらの点その他の交付に関する手続は、若し管理執行機関においてこれをルーズに取扱い当然拒否すべき不適法な請求に対しても濫りにこれを許すならば、選挙の自由公正を確保し難いことは明白である。

本件選挙において不在者投票の数は二千七百六十一件にのぼるが、そのうち九百二十九件については、その投票用紙及び投票用封筒の交付に関する手続が次に述べるとおり違法である。

先ず本件不在者投票については、仙台市選挙管理委員会は、あらかじめ、「不在者投票用紙及び同封筒の請求」と標記した請求書に証明書欄を設けたもの(例えば乙第一号証)及び「不在者投票用紙及び同封筒の請求書」と標記した請求書に疎明の事由欄を設けたもの(例えば乙第六十一号証)を用意して置き、直接請求により投票用紙及び投票用封筒を交付した選挙人のすべてに対しそれぞれこれに記載して提出させ、なお法定の証明書を提出した場合においては右証明書欄附の請求書にこれを添附させる方法を採用していたのであつて、乙第一乃至第九百二十九号各証(但し第二十六乃至第二十九号証の各一乃至四を除く)の請求書は右の請求書に該るのであるが、右乙各号証の請求書の記載をみると、後に述べるとおり著しく不備なものがあるのである。もつとも右請求書は必ずしもこれを請求又は疎明のための文書であるといいえないことは原告等主張のとほりであるが、少くとも右はこれらの手続の適法に行われたことを記録化しその証憑書類とするために作成された文書であり、これと併せて原告等主張のように「不在者投票に関する調書」を作成する資料とするためのものであつたと認めるのを相当とする。もともと右請求又は疎明が口頭で行われた場合には、その手続が適法に行われたことについて後日の紛議を避けるため、これを記録しておかなければならないのであつて、若しこれを怠つた結果後日の紛議を生ずることを免れないようなことがあれば、このような管理執行の仕方自体がその規定の趣旨に反し違法なものというべきである。仮に右請求書が、原告等主張のように単に調書作成の資料として作成されたに過ぎないものとしても、右は結局口頭による請求又は疎明についてこれを記録化したものに外ならないのであつて、他にこの点を記録化した書類の存しない事実と、当時その管理執行機関において不在者投票の制度の趣旨を誤解しこれを選挙人をして棄権することなく選挙権の行使を容易ならしめるための便宜的措置であるとしその理由の下に、規定を無視し又は著しくルーズな解釈適用をして、現実には請求者のすべてに対して投票用紙及び投票用封筒を交付して投票させる結果を生じさせている事実等に照すと、他に投票用紙及び投票用封筒の交付に関する手続が適法にされたことを認識し得る何ものもない本件では、右請求書の記載が著しく不備である限り右手続も同じく違法に行われたものと認めるほかはないのである。右投票用紙及び投票用封筒が交付され、しかもこれによつて不在者投票の行われたことからして、右交付に関する手続が適法にされたものと推認することはできない。又右交付に関する手続の違法は前に述べたとおり選挙の規定に違反するものであつて、これを単に投票の効力に影響を及ぼすに過ぎないものということはできない。

次に右九百二十九件の違法は次のとおりである。

(1) 不在者投票の事由に該当する旨の適法な証明書を提出させないで投票用紙及び投票用封筒を交付し不在者投票をさせたもの 二十六件

その内訳は、

(イ) 証明書に全く記載のないもの(乙第一乃至第八号証) 八件

右は請求書に証明書欄が設けられているが、その証明書欄は全く空白で結局証明書を欠くものである。

(ロ) 証明者の住所、職氏名印を記載すべき欄下に何等の記載のないもの(乙第九乃至第十九号証、第四十六号証) 十二件

右は請求書の証明書欄の右の点に何等の記載がなく、他の欄には何等かの記載はあつても結局証明書の実質を欠くこと明白なものである。

(ハ) 証明者の住所、職氏名印を記載すべき欄下に記載あるも、証明者と認められないもの(乙第二十乃至第二十四号証) 五件

右は請求書の証明書欄の右の点に何人の記載にかゝるものか不明な「事務従事者」との記載があるのみで一見これが証明者でないことが明白であり、結局右(ロ)と同じく証明書の実質を欠くものである。

(ニ) 証明者の住所、職氏名印を記載すべき欄下に被証明者(選挙人)が勤務する場所と想像される「仙台スレート工業所」という名称の記載はあるが、住所氏名の記載はなく且押印のないもの(乙第二十五号証) 一件

右は請求書の証明書欄は空白で、その欄下に右記載があるだけであり、結局前同様証明書の実質を欠くものである。

(2) 令第五十条第四項、第五十五条第二項、第五十条第一、二項の規定に反し投票用紙及び投票用封筒の交付請求につき指定病院長よりの請求の文書を欠くもの及び他町村役場における投票の場合において不在事由該当証明書も請求の郵便もともにないもの 四件

その内訳は、

(イ) 指定病院長の請求書及び証明書のないもの(乙第二十六号証の一乃至四) 一件

右は令第六十一条により作成された不在者投票に関する調書抄本の記載によると、選挙人深瀬松雄が神奈川県立長浜病院で不在者投票をするにつき同病院長より投票用紙及び投票用封筒の交付請求があつたとされているが、その請求書及び証明書がなく請求の事実が認められないものである。

(ロ) 不在者投票に関する調書によれば、他町村役場において投票した旨の記載があるが、請求書及び証明書のないもの(乙第二十七乃至第二十九号証の各一乃至四) 三件

(3) 証明書は添附されているが、その記載に重大な瑕疵があつて適法な証明書と認められないもの及び法定の不在事由に該らないことが明白なもの 三十件

その内訳は、

(イ) 不在期間に選挙の当日が含まれていないもの(乙第三十乙至第三十三号証の各一、二、第三十四号証、第三十五、六号証の各一、二) 七件

(ロ) 選挙人は国有鉄道乗務員で、選挙の当日が勤務日に該るが、時間の関係からすれば当日投票の可能なもの(乙第三十七乃至第三十九号証の各一、二) 三件

右は勤務開始時間前一時間の余裕をみてもなお投票開始時刻(午前七時)から約一時間余の時間的余裕があり、又投票所から勤務先までの所要時間は三十分も要しないこと等から、当日投票が優に可能なものである。

(ハ) 選挙人は国有鉄道の仙台市内の駅に勤務する駅員(乗務員ではない)で、選挙の当日が勤務日に該るが、不在事由が郡市の区域外における職務ではなく、法定の不在事由のいずれにも該当しないもの(乙第四十、第四十一号証の各一、二) 二件

(ニ) 証明書に証明者、被証明者の記載のないもの及び無権限者の証明にかゝるもの 六件

右を小訳すると、

(A) 被証明者の住所氏名の記載のないもの(乙第四十二号証の一乃至三、第四十三乃至第四十五号証の各一、二) 四件

(B) 証明書の証明者の欄に職名と想像される「仙台鉄道管理局長町機関区長」という文字だけ記し、住所氏名の記載なく且押印のないもの(乙第四十七号証の一、二) 一件

(C) 証明者が無権限であるもの(乙第四十八号証の一、二) 一件

(ホ) 法定の不在事由に該当しないもの(乙第四十九乃至第六十号証の各一、二) 十二件

右は法定の不在事由に該当しないことが明白であり、更に右のうち十件(乙第五十一乃至第六十号証の各一、二)は被証明者を特定すべき記載がなく、この分は結局二重の瑕疵があるものである。

(4) 証明書の提出がなく、令第五十二条第三項の疎明によるものとしても、証明書を提出することができない事由の疎明が全くなく、不在事由についても疎明が全く欠けているか又は著しく不備であつて、法定の不在事由のいずれにも該らないことが明白なもの(乙第六十一乃至第九百二十九号証)

八百六十九件

右のうち請求書(疎明の事由欄が設けられている)の記載によつて法定の不在事由に該当しないことが明白なものを挙げると、

(イ) 七十九件(乙第七百八十九乃至第八百六十七号証)は、その事由欄にはいずれも単に「用務」又は「旅行」と記載するだけでその目的の記載が全く欠けている。そのうち一件(乙第八百七号証)は不在期間の記載もない。

(ロ) 三百十二件(乙第四百七十六乃至第七百八十七号証)は、事由欄に記載の旅行の目的がいずれも単に「私用」としてあるだけで一見法定の不在者投票の事由に該当するかどうか不明である。そのうち一件(乙第四百九十八号証)は選挙の当日が不在期間に含まれない。

(ハ) 三十一件(乙第八百六十八乃至第八百九十八号証)は、事由欄に記載の旅行の目的がいずれも単に「旅行」又は「私事旅行」としてあるだけで記載自体無意味である。そのうち一件(乙第八百六十九号証)は選挙の当日が不在期間に含まれない。

(ニ) 七件(乙第四百十七号証、第七百八十八号証、第九百二十二乃至第九百二十六号証)は、事由欄に記載の旅行の目的がいずれも単に「花見招待」又は「花見」「遊覧」「見物」等としてあるだけである。

(ホ) 十九件(乙第八百九十九乃至第九百十七号証)は、事由欄に記載の旅行の目的がいずれも単に「参拝」としてあるだけである。

(ヘ) 四件(乙第九百十八乃至第九百二十一号証)は、事由欄に記載の旅行の目的がいずれも単に「転任」又は「引越」としてあるだけである。

(ト) 三件(乙第九百二十七乃至第九百二十九号証)は、事由欄に記載の旅行先が仙台市内である。

(チ) 五件(乙第八十号証、第八十四号証、第三百十三号証、第三百十五号証、第四百十八号証)は、選挙の当日が不在期間に含まれない。

以上九百二十九件に及ぶ違法は前に述べたとおり選挙の管理執行に関する規定に違反するもので、右は選挙の結果に異動を及ぼす虞があるものである。即ち、右の違法な不在者投票については、その選挙人が本来不在者投票不適格者として投票用紙の交付を拒否されれば或は選挙の当日棄権したかも知れないし、事実上棄権せざるを得ない者もあろうし、又棄権しない者の投票についても不在者投票の場合と選挙の当日の投票の場合と必ずしも同一候補者に対し投票するとは限らず、しかも以上の各場合のその数はこれを捕捉し得ないものである。一方本件選挙の選挙会の決定によれば、当選人岡崎栄松及び次点者島野武の得票数は原告等主張のとおりでその差は僅かに五百五十九票に過ぎない。これらの事実に照すと、右九百二十九票にのぼる不在者投票に関する違法は選挙の結果に異動を及ぼす虞のある場合に該当するものである。よつて本件選挙は無効なものである。

(四)  選挙期日の告示の違法について。

本件選挙は任期満了による市長選挙であるから、その選挙期日の告示は、その期日である昭和三十年四月三十日のおそくも十五日前である同月十五日には適法に行われねばならない。しかるに仙台市選挙管理委員会は本件選挙期日の告示としては、同月三十日印刷、昭和三十年五月一日発行の仙台市公報に、これを掲載して告示したほか、他に法定の時期に告示が適法になされたと認むべき何等の事実もない。即ち本件選挙は告示なしに執行されたものというべきであつて、選挙の管理執行に関する規定に違反することは、いうまでもない。そして選挙人が選挙の期日を期日前に公式に周知せしめられることは選挙権行使の前提であり、又選挙の結果がその選挙区の選挙人の総意の反映であるとされるための不可欠の前提要件でもあるのに対し右前提たる適法な告示を欠く以上一般的に当該選挙は、到底正当な結果を期待し得べくもない。即ちこの違法がなかつたならば別の結果となつたであろうことは容易に考えられるところである。従つて右告示に関する違法は選挙の結果に異動を及ぼす虞がある場合に当り本件選挙を無効ならしめるものである。

仙台市選挙管理委員会規程及び仙台市条例にそれぞれ原告等主張のような告示又は公布の方法に関する規定のあることは認めるが、仙台市選挙管理委員会が本件選挙の告示を市役所前掲示場に掲示して行つたとの事実は否認する。又告示、公布の要件として右掲示場に掲示すれば足りるとの主張は争う。告示又は公布の効力が発生するためには、市役所前掲示場に掲示し、且つ公報にこれを登載することを要件とするものである。仮りに、原告等主張のとおり掲示場に掲示されたとしても、それは半紙半截の紙片を野外掲示場の片隅にしたのに過ぎず、しかも仙台市選挙管理委員長の署名を欠いていたのであるから、告示として実効あるものとはいえないのである。

(五)  選挙の当日投票場において投票した選挙人に対する確認並びに投票用紙交付の違法について。

法第四十四条、令第三十五条第一項は、投票管理者が投票用紙を選挙人に交付するには、投票しようとする者が果して選挙人であるかどうかを、選挙人名簿又は同抄本と対照して確認のうえこれをしなければならない旨規定し、更に法第五十条第一項、令第四十条は、右確認手続によつて本人であるかどうか確認することができない場合の措置として、その本人である旨の宣言をさせるべき旨を規定している。更に令第三十一条には、右のような選挙人の確認の方法並びに投票者実数の把握に資する方法として投票所入場券の交付についても規定している。以上のように選挙人本人であるかどうかの確認を厳重にすべきこと及び投票用紙交付が適正に行わるべきことについては、右の規定に俟つまつまでもなく選挙制度の建前から云つて当然のことである。選挙は選挙の当日選挙権のある選挙人本人により、自由に表明された意思の集積としてのみ意義があるからである。従つて右本人かどうかの確認の厳正はその後に進められるすべての選挙手続の基本をなすものである。

ところで仙台市選挙管理委員会が、本件選挙にあたり右について採つた具体的方法は、あらかじめ入場券を有権者の手許に交付しておき、選挙の当日これを持参せしめ、各投票所の名簿対照係をして右入場券持参者につき選挙人名簿の抄本と対照し、本人であることを確認した証拠として、入場券と名簿とに、係員の印章を使用して割印せしめているのである。しかし右係員の確認の仕方は殆ど形式的なものに終始し、適確な確認は、実質的に行われなかつたため合計七百七十六件に及ぶ明瞭な対照手続上の瑕疵が存在する。即ち、

(1) 入場券と名簿に割印のないもの 一一七枚

(2) 入場券に割印あつて名簿に割印のないもの 七四枚

(3) 名簿に割印あつて入場券にないもの 七九件

(4) 入場券二枚あつて一枚にのみ名簿と割印のあるもの 三件

(5) 入場券二枚あつてうち県議会議員選挙の分に名簿と割印があり市長選挙の分に割印のないもの 一件

(6) 名簿に割印二つあつて割印ある入場券一枚のもの 二件

(7) 入場券二枚あつて名簿とそれぞれ割印のあるもの 五件

(8) それぞれ割印ある入場券二枚あつて名簿に割印一つのもの 一〇件

(9) 二重に登録された選挙人で他投票区の入場券と当該投票区の名簿に割印のあるもの 一枚

(10) 入場券と名簿に割印が二つあるもの 一枚

(11) 名簿に割印なく入場券裏面に六個の捺印あるもの 一枚

(12) 名簿に「地方選挙権なし」の符箋あるもので入場券と名簿に割印のあるもの 二件

(13) 県議会議員又は衆議院議員選挙の入場券で割印のあるもの 四七四枚

(14) 県議会議員又は衆議院議員選挙の入場券で割印のないもの 六枚

である。以上のように選挙人の確認を実質的に行わないで、漫然投票用紙を交付して投票させた事実は、さきに挙げた選挙の管理執行に関する法規に違反する違法な措置であることはいうまでもない。しかもその違法は選挙の基本をなす事項にわたるものであり、その結果は二重投票、無権利者の投票等を発生せしめている。

一方、被告の調査によれば、本件選挙の投票に際し選挙人から徴した入場券として残存する入場券は十五万九千三百十七枚であるけれども、同一人について入場券の二枚あるもの四件は、投票を各一票のみ行使したことが明かであるから、右残存枚数から四枚を控除した十五万九千三百十三枚の入場券に相当する数が一応当日の投票者数とみなされるものである。これに不在者投票をした二千七百六十一との合計十六万二千七十四が総投票者とみなされる。しかるに被告が点検調査した総投票数は十六万二千八十二であるから総計において八票の過剰投票が存することになる。これを第一乃至第七開票所別にみるに、各開票所で過不足があるが、第一開票所において六票、第二開票所において七票、第三開票所において五票、第六開票所において三票合計二十一票の過剰投票を生じている。また投票所における受付に際しては入場券と選挙人名簿とを対照しこれに割印を施していたのであるから、確実な投票者実数は入場券及び名簿の割印の数と一致すべきものである。しかるに入場券で割印のあるものの数は十五万九千百八十六で前記被告の調査した投票総数と比較した場合百三十五票の過剰投票を生じ、又名簿の割印数と比較すると百十九票の過剰投票を生ずることになる。なお入場券は紛失の可能性もあるので、名簿の割印数を判断の基礎とする方が入場券のそれよりも信頼性を置くことができるのは当然であるから、過剰投票の数は一応少くとも二十一票乃至百十九票あるものと推定できるのである。このような状況は、つぎに述べる投票用紙の管理、受払の違法事実と相俟つて、本件選挙における投票者実数の把握を不可能ならしめたものである。投票者実数の把握のできない選挙が甚しく公正を疑われることも又理の当然である。従つて前記選挙人に対する確認並びに投票用紙交付に関する違法は本件選挙を無効とする重大な素因となるものである。

(六)  投票用紙の管理、受払の違法について。

仙台市選挙管理委員会は本件選挙の投票用紙として、普通投票用紙二十二万枚、点字投票用紙千枚を宮城刑務所に印刷せしめた。その使用数はつぎのとおりである。

区分

投票録及び開票録による計算

被告の点検の結果による計算

投票当日交付数

一五九、二九七枚

一五九、三二一枚

不在者投票交付数

二、七六一枚

二、七六一枚

持帰りと認められるもの

一〇枚

一三枚

不在者投票のため投票用紙の交付を受けたが投票しなかつたもの

二〇枚

二〇枚

一六二、〇八八枚

一六二、一一五枚

未使用として残るべき数

五八、九一二枚

五八、八八五枚

しかるに被告の点検の結果によれば、未使用の投票用紙は五万八千四百九十枚残存するに過ぎない。即ち投票録及び開票録による計算によれば四百二十二枚、被告が点検した投票数の計算によれば三百九十五枚未使用として残るべき投票用紙の不足があることとなる。

以上は、仙台市選挙管理委員会において、宮城刑務所から印刷された投票用紙を受領するに際し、当然行うべき枚数の点検を全然せず、これを各投票所に配布するにあたつても確実な枚数点検を行わず、配布先である各投票所においても投票の前後における投票用紙の枚数点検を殆ど行つていないためによるものである。これら一連の投票用紙の管理、受払における仙台市選挙管理委員会乃至各投票管理者の放漫杜撰な取扱は直接選挙法規に違反するものではないが、前記のように相当多数の過剰投票の存在が推認される本件選挙にあつては前述の選挙人の確認に関する違法と相関連し、投票者数の把握を不可能にし、ひいては不定数の不正投票の存在をも推認せしめることとなるから結局選挙の公正を担保する選挙法規全体の趣旨に反し、且つ本件選挙の公正を甚だしく阻害するものである。

(七)  投票包の保管、投票の保存の違法について。

本件選挙の点検済の投票包は二十八包であるが、その全部につき令第七十六条所定の封筒を使用していない。又開票立会人の封印を欠くものが十一包ある。更にその梱包は極めて不完全であつて包の破損が甚しい。そのため封紙はあるけれどもこれを破損することなく容易に開包し得るもの十三包、開包せずに投票の出し入れのできるもの四包、双方いずれもできるもの一包合計十八包の多数にのぼつている。従つて封紙、封印による開票時における投票の原状保存に関する法の保障は、開票管理者及び市選挙管理委員会の故意又は重大な過失によつて全く失われ、そのうえ更に進んで投票包の内容に立ち入つて各投票者別得票数を検討すると、開票録記載のそれと一致するのは二十八包中僅かに六包にすぎない実情である。しかもこれら投票包の異常な状態は選挙会の開かれる以前にも略々同様であつたというから、この点選挙会の決定そのものゝ当否も疑われることゝなるのである。法第七十一条は投票は当選人の任期間これを保存しなければならない旨規定している。これはいうまでもなく、選挙又は当選の争訟に備え選挙に関するあらゆる疑点を解明するうえにおいて、その重要な判断の基準として投票の原状保存が不可欠であるからに他ならない。この基準となるべき投票乃至投票包につき以上のような取扱と保管の仕方は右法の要求する保存が実質的にはなされなかつたことを意味するのみならず、前記の各違法と関連し、本件選挙に不正行為介入の疑念を生ぜしめ、更には投票者実数把握につきその根拠を失わしめ、よつて選挙の公正を甚しく阻害したものである。

以上(三)乃至(七)の違法中、(三)、(四)の違法はそれ自体独立して本件選挙を無効ならしめるものであり、(五)乃至(七)の違法は帰するところ、本件選挙の投票者実数の把握を不可能にし、選挙の結果につき及ぶところ不測の違法であるから、(三)の不在者投票の違法を愈々決定的ならしめるものである。されば本件選挙を無効とした被告の裁決は正当であつてその取消を求める原告等の本訴請求は失当といわねばならない。

第四、証拠。〈省略〉

理由

一、原告等主張の一の事実については当事間に争がない。

二、原告等主張の二の事実については以下にこれを判断する。

(一)  訴願について。

選挙の効力及び当選の効力に関する争訟手続は、その異議の申立又は訴願の提起において、一個の申立で同時にこの両者の効力を争うことを許さないものではない。本件訴願の提起は、異議の申立におけると同じく、一個の申立でこの両者の効力を争つているものであることは当事者間に争のないところであるが、これをこの点において不適法なものということはできない。その不適法であることを前提とする原告等の主張はこれを採用することができない。

(二)  審理不尽について。

原告等主張の事実はこれを認めるに足る証拠がない。又被告が原告等主張のように仙台市選挙管理委員会の弁明を聴かないで審理裁決したとしても、その裁決を違法とするに足らない。なお原告等主張の事実が直に裁決の無効をきたすものでないことは勿論である。この点の原告等の主張もこれを採用することができない。

(三)  不在者投票について。

公職選挙法(以下法という。)は、第四十四条乃至第四十六条の規定により、選挙人が選挙の当日自ら投票所に行き、投票用紙の交付を受けて投票するのを原則とするのであるが、選挙人の選挙権の行使を全からしめるため、一定のやむを得ない事由のあることが認められる場合に限つて、例外として不在者投票の制度を採用し、これについて法第四十九条、同法施行令(以下令という)第五十条乃至第六十五条に規定している。一般に選挙の規定はこれを厳格に解釈適用しなければならないことはいうまでもないが、不在者投票についても同じであることは勿論であつて、これに関する規定は若しこれが厳格に解釈適用されず濫用されることがあれば、選挙の自由公正を害する虞のあることは明かであるといわなければならない。

法第四十九条、令第五十条乃至第五十四条の不在者投票の投票用紙及び投票用封筒の交付に関する規定は、その管理執行に関する規定であることは明かなところである。これについてみるに、法第四十九条は第一号乃至第四号に一定の事由を掲げ、これを不在者投票の事由と定め、令第五十条第一項は、選挙人が右不在者投票の事由によつて選挙の当日自ら投票所に行つて投票することができないと認められる場合においては、その登録されている選挙人名簿の属する市町村の選挙管理委員会の委員長に対して、直接に又は郵便をもつて、その旨を証明して、投票用紙及び投票用封筒の交付を請求することができるものとしている。右の郵便による請求の場合においては(令第五十条第四項に規定する船長病院長等が選挙人に代つて請求する場合についても同じ)その請求は文書をもつてするものであることは規定上明かであるが、直接の請求の場合においては、その請求は文書をもつてすることを要するものではなく口頭ですることができるものというべきである。しかして右の不在者投票の事由に該当する旨の証明は(令第五十一条に規定する船員の請求の特例の場合についても同じ)令第五十二条第一項第一号乃至第五号に掲げる証明者のした証明書を提出してしなければならないのであつて、これが原則である。たゞ同条第三項により例外として、右の同条第一項第一号の証明者のない場合又は正当な事由によつて証明書を提出することができない場合にそれが疎明されたときは、右証明書の提出を要しないのである。この場合においては、同条第三項の規定の趣旨からして、右不在者投票の事由に該当する事由のあることはこれを疎明しなければならないものというべきである。これらの疎明については、その方法を制限した規定がないから、必ずしも文書をもつてすることを要するものではなく、口頭ですることができるものと解するのを相当とする。そして令第五十三条第五十四条によると、これらの規定による投票用紙及び投票用封筒の交付請求があつた場合においては、選挙管理委員会の委員長は、先ず選挙人名簿又はその抄本と対照の上、右請求にあわせて提出された証明書によりその請求をした選挙人に法第四十九条各号に掲げる不在者投票の事由の一に該当する事由があるかどうかを審査し、これによつて選挙の当日自ら投票所に行つて投票をすることができないことが認められたときに初めて交付しなければならないのであつて、又右証明書の提出がなくても、令第五十二条第一項第一号の証明者がない場合又は正当な事由によつて証明書を提出することができない場合においては、その旨が疎明されると共に右不在者投票の事由に該当する事由のあることが疎明され、これが認められたときに初めて交付しなければならないことが明かである。これらの規定が厳格に解釈適用されなければならないことは前に説明のとおりである。

本件選挙において、不在者投票の数が二千七百六十一件にのぼることは当事者間に争がない。被告等は、右のうち九百二十九件(乙第一乃至第九百二十九号各証)の不在者投票については、その投票用紙及び投票用封筒の交付手続が違法である旨主張するから、次に順次判断する。

先ず本件不在者投票において、仙台市選挙管理委員会が、あらかじめ、「不在者投票用紙及び同封筒の請求」と標記した請求書に証明書欄を設けたもの(例えば乙第一号証)及び「不在者投票用紙及び同封筒の請求書」と標記した請求書に疎明の事由欄を設けたもの(例えば乙第六十一号証)を用意しておき、直接請求により投票用紙及び投票用封筒を交付した選挙人のすべてに対しそれぞれこれに記載して提出させ、なお別に証明書を提出した場合は右証明書欄附の請求書にこれを添附させる方法を採用していたこと(もつとも疎明による請求のあつた場合において、たまたま右疎明の事由欄附の請求書の用紙が不足したために、その代りに証明書欄附の請求書を使用したこともあることは、証人茂手木宮男、米野久太郎、鎌田哲男、井上薫の各証言を綜合してこれを認めることができる)、及び第一乃至乙第九百二十九号各証(但し第二十六乃至第二十九号証の各一乃至四を除く)の請求書が右請求書に該るものであることは、当事者間に争がない。そして被告等主張の右九百二十九件の場合は、右請求書に適法とされる証明書を添附して提出したものを除き、その余の殆どにわたるものであることは、弁論の全趣旨に照し当事者間に争のないものと認められるところである。ところで不在者投票における投票用紙及び投票用封筒の交付請求及び疎明が必ずしも文書をもつてすることを要するものでないことは、前に説明のとおりであるが、右乙各号証の請求書は、この場合における請求又は疎明の文書として提出されたものであるかどうかは、問題のところである。しかしこの点については、右請求書が右の趣旨の文書ではなく、少くとも公職選挙法施行規則第十四条に規定する「不在者投票に関する調書」を作成する資料として作成提出させたものであることは被告等においてもこれを争わないものと認められる。そうだとすれば右請求書の記載が前記請求の要件に照しこれに欠けているところがあつても、これによつて直にその点の不適法を認め得るものでないことはいうまでもないところである。しかし右請求書は、少くとも右請求により投票用紙及び投票用封筒を交付する場合にこれと同時に請求をした選挙人をしてこれに記載提出させたものであることは原告等もこれを認めるところであるから、その交付手続が適法に行われたかどうかを認定するについては、その証拠資料となるものであることは勿論である。なお被告等は口頭による請求又は疎明があつた場合においては、その手続が適法に行われたことを明かにし後日の紛議を避けるために、これを記録化しなければならないものである旨主張するが、当時施行の令第六十条第一項の規定によると、選挙人が登録させている選挙人名簿の属する市町村の選挙管理委員会の委員長は、令第五十条(投票用紙及び投票用封筒の請求)、第五十二条(不在者投票の事由に該当する旨の証明書の交付、)第五十三条(投票用紙、投票用封筒及び不在者投票証明書の交付)、その他第五十四条第一項、第五十六条及び第六十条の規定によつてとつた措置の概要を記載した調書を作成しなければならないものとしているけれども、右規定は、被告等主張の点についてまでこれを記録化すべきことを定めたものでないことは、その規定の趣旨に照して明かなところであつて、他にこの点に関する規定は存しないから、これが義務付けられているものと断定することはできないものといわなければならない。

そこで先ず右請求書の点につき被告等主張の九百二十九件について検討するに、

(1)  被告等主張の(1)のうち(イ)の八件(乙第一乃至第八号証)については、請求書に設けられた証明書欄が全く空白であること、同(ロ)のうち三件(乙第十二、十三号証、第四十六号証)については、請求書の証明書欄の証明者の住所、職氏名印を記載すべき欄下に何等の記載のないこと、同(ニ)の一件(乙第二十五号証)については、請求書の証明書欄が空白で、証明者の住所、職氏名印を記載すべき欄下に「仙台スレート工業所」という記載があるだけで住所氏名の記載がなく且押印のないものであることは、いずれも当事者間に争がない。これによると、右(イ)の請求書の証明書欄が全く空白なもの八件はいずれも証明書の提出がなかつたものであることが明かであり、その他の四件も証明書の実質を欠きこれを適法な証明書の提出があつたものといえないことは明かである。もつとも原告等は右についていずれも証明書によつて不在者投票の事由を認めたものでないことを認めている。そして右はいずれも口頭の疎明によつて認めたものである旨主張するが、右疎明の有無については後に判断する。

(2)  被告等主張の(3)のうち(イ)の七件(乙第三十乃至第三十三号証の各一、二、第三十四号証、第三十五、六号証の各一、二)については、証明書記載の不在期間に選挙の当日(昭和三十年四月三十日)が含まれていないことは当事者間に争がない。成立に争のない乙第三十乃至第三十三号証の各二、第三十五、六号証の各二によると、右不在期間はそれぞれ「四月二十日より一週間」「四月二十日より二十四日まで」「四月二十二日より二十六日まで」「四月二十一日より二十七日まで」「四月二十一日より二十七日まで」「四月二十日より一週間」「四月二十二日仙台駅発同月二十四日帰着」と明記されていることが認められ、殊に右乙第三十六号証の二によると、その証明書には昭和三十年四月二十三日執行の宮城県議会議員選挙の不在者投票の事由を証明する旨の記載のあることが認められる。本件選挙前に同年四月二十三日宮城県議会議員選挙の行われたことは明かなところであるから、これらの事実に照しても、右はいずれも単なる記載上の誤記とは認められない。従つて右証明書はいずれも不適法であることが明かである。原告等は、右はいずれも口頭の疎明により選挙の当日も不在であることが明かであつたので、証明書記載の不在期間に拘泥せずこれを認めた旨主張するが、右疎明の有無及び適否については後に判断する。

同(ハ)の二件(乙第四十、四十一号証の各一、二)については、被証明者は国有鉄道の仙台市内の駅に勤務する職員であることは当事者間に争がなく、成立に争のない同号証の各二の証明書記載によると、選挙の当日も仙台市の区域外における勤務に従事するものでないことが認められる。これによると、右証明書はいずれも不在者投票の事由を証明するに足らないからその不適法なものであることが明かである。原告等は、右はいずれも徹夜勤務で投票のためその職場を離れることができないものであるから実際上区域外にある場合と何等異るところがない旨主張するが、右証明書の記載からは直にこの点を認め難く、又これをこのように解することは相当でない。なお原告等は、右は証明書のほか本人の口頭の疎明をも併せ採用してこれを認めた旨主張するが、右疎明の有無及び適否については後に判断する。

同(二)のうち(A)の四件(乙第四十二号証の一乃至三、第四十三乃至第四十五号証の各一、二)については、証明書に被証明書の住所氏名の記載のないことは当事者間に争がない。これによると、右証明書は何人に対する証明であるかが明かでないから、不適法なものであることが明かである。原告等は、右は選挙人が自ら持参呈示し且請求書に添附して請求したものであるから被証明者は右選挙人であることは明かであると主張するけれども、右のような場合にこれを明かであると断定することはできないし、右のような解釈は相当でないから、右主張はこれを採用することができない。

同(B)の一件(乙第四十七号証の一、二)については、証明書の証明者の欄に「仙台鉄道管理局長町機関区長」と記載しただけで、証明者の住所氏名の記載がなく且押印のないことは当事者間に争がない。これによると、右証明書は証明者が何人であるかが明かでないから、不適法なものであることが明かである。原告等は、右は証明書のほか、選挙人の疏明をも併せ採用してこれを認めた旨主張するが、右疏明の有無及び適否については後に判断する。

同(ホ)の十二件(乙第四十九乃至第六十号証の各一、二)については、証明書に不在事由として「会社慰安旅行」に出席し旅行する旨記載してあることは当事者間に争がない。これによると、他にこれをやむを得ないものとする事情のあることが認められる記載のない限り、右は法第四十九条第二号のやむを得ない用務又は事故とは認められないものである。これを原告等主張のように直に同号の事由に該当するものと解することは相当でない。なおこれを同法のその他の各号の事由に該当するものと認められないことも勿論である。よつて右証明書は法定の不在事由を証明するに足らないものである。又右のうち被告等主張の十件(乙第五十一乃至第六十号証の各一、二)については、証明書に被証明者の記載のないことは当事者間に争がない。右証明書は、すでにこの点において、前示(A)の四件に対すると同じ理由によりその不適法であることが明かである。

(3)  被告等主張の(4)の八百六十九件(乙第六十一乃至第九百二十九号証)については次のとおりである。

(イ) 右のうち乙第百号証の一件を除くその余については、成立に争のない乙第六十一乃至第九十九号証、第百一乃至第九百二十九号証によると、請求書に令第五十二条第三項に規定する同第一項第一号の証明者がない場合又は正当な事由によつて証明書を提出することができない場合に該当する旨の記載のあることが認められない。即ち、右請求書には、いずれも不動文字で、右規定による証明書を提出することができないから左に併せて疏明する旨の記載はあるが、事由欄の記載によつても(なおこの点については次項以下の判断参照)これを認めることができないし又事由欄の記載によつてこの点が自ら明白なものとも認められない。右不動文字の記載があるだけでは、その証明書を提出することができない事由が認められないから疏明にならないことは勿論である。原告等は、右請求書の記載だけでもこの点が一応認められると主張するが、右主張はこれを採用し難い。もつとも原告等は、仙台市では市長の旅行証明及び不在証明の証明書を発行しておらないので大部分は当初から証明書を提出するに由ないものである旨主張するが、これを右事由の認められない場合だけでなく、令第五十二条により市長が証明者として規定されている場合でもなおその規定に反し一般にその証明書を作成しなかつたものであるとしても、同条の証明者はこの証明すべき事由により必ずしも市長に限られたものではないし、右請求書の場合いずれが右の場合に該るかはその記載によつては明かなものではない。又原告等主張の事由は同条第一項第一号の証明者のない場合に該らないことは勿論である。従つて市長が証明書を作成しなかつたとしても前認定を左右するに足らない。原告等は、証明書を提出することができない事由については、右請求書の記載だけでなく、口頭の疏明によつてこれを認めたものである旨主張するが、右疏明の有無については後に判断する。

(ロ) 右のうち一件(乙第八百七号証)については、請求書の疏明の事由欄に不在事由の記載のないことは当事者間に争がない。又右のうち七十八件(乙第七百八十九乃至第八百六号証、八百八乃至第八百六十七号証)については、成立に争のない同号証によると、請求書の疏明の事由欄にそれぞれ単に不在期間、選挙期日における所在地だけを記載し、その不在の事由は全く記載されていないことが認められる。これによると、右請求書はいずれもその記載によつては、不在者投票の該当事由を認めることができないものであることが明かである。もつともこれらの請求書には不動文字で「旅行(出張)のため」と記載してあることはこれを認め得るが、その旅行又は出張の目的が記載されていない限り、不在者投票の事由に該当するかどうかは不明であつて、これをその該当事由の記載があるものということはできない(なおこの点の事実は以下認定の乙各号証についていずれもこれを認められるが、その判断は同様である)。これについて原告等主張の口頭の疏明の有無は後に判断する。

(ハ) 右の内三百十二件(乙第四百七十六乃至第四百八十七号証、第四百八十九乃至第七百八十七号証、第九百二十九号証)については、成立に争のない同号証によると、請求書の疏明の事由欄にそれぞれ単に「私用」「私事」「私事用件」「仕用」「京都大学に私用」等記載されているだけで、その用務の内容が記載されていないことが認められる。これによると、右請求書の事由はいずれも不在者投票の事由に該当するかどうか不明であつて、これをその該当事由の記載があるものということはできない。これについて原告等主張の口頭の疏明の有無は後に判断する。

(ニ) 右のうち二十九件(乙第八百六十八乃至第八百八十二号証、第八百八十四乃至第八百九十七号証)については、成立に争のない同号証によると、請求書の疏明の事由欄にそれぞれ単に「旅行」「私用旅行」「私(旅行)事」「旅行(私用)」「東京旅行」「関西旅行」「山形旅行」等と記載されているだけで、他にその旅行の目的又は内容が記載されていないことが認められる。これによると、右請求書の事由はいずれも不在者投票の事由に該当するかどうか不明であつて、これをその該当事由の記載があるものということはできない。これについて原告等主張の口頭の疏明の有無は後に判断する。

(ホ) 右のうち二十六件(乙第四百十七号証、第七百八十八号証、第九百二十二乃至第九百二十六号証、第八百九十九乃至第九百十七号証)については、成立に争のない同号証によると、請求書の疏明の事由欄にそれぞれ単に「花見招待」「お花見」「私用遊覧」「私用廻遊」「遊覧旅行」「本山参拝」「参拝」「高野山参拝」「高野山伊勢参拝」「古峯神社成田山」「関西方面高野山参拝」「高野山伊勢団体旅行」等と記載されているだけであることが認められる。これによると、右請求書の事由は、他にこれをやむを得ないものとする事情のあることが認められない限り、直に不在者投票の事由に該当するかどうか不明であつて、右の事情のあることは右記載だけからはこれを認めることができないから、これをその該当事由の記載があるものということはできない。これについて原告等主張の口頭の疏明の有無は後に判断する。

(ヘ) 右のうち二件(乙第八十号証、第三百十三号証)については、成立に争のない同号証によると、請求書の疏明の事由欄に不在期間をそれぞれ「昭和三十年四月二十日より四月二十四日まで」「昭和三十年四月二十一日より四月二十五日まで」と明記してあることが認められる。これによると、前記(2)に説明のとおりの理由により、右期間には選挙の当日が含まれないことが明かであるから、右請求書の事由は、これを不在者投票の該当事由の記載があるものということができないことは明かである。これについて原告等主張の口頭の疏明の有無は後に判断する。

(ト) 右のうち一件(乙第九百二十八号証)については、その不在事由として「財団法人原町病院勤務のため」と記載してあつて、右勤務先が仙台市の区域内であることは原告等のこれを認めるところである。これによると、右事由は不在者投票の事由に該当しないことが明かである。原告等は、右は職務の性質上仙台市の区域外において勤務すると異らないから不在者投票の事由に該当する旨主張するが、右請求書の記載からはこれを認めることができないし、又これをそのように解釈することは相当でない。

(4)  右認定によると、被告等主張のうち、請求書に証明書が添附されていないもの十二件、証明書が添附されていてもその証明書の不適法であることが明かなもの二十六件、請求書の疏明の事由欄に証明書を提出することができない旨の疏明の記載されていないことが明かなもの八百六十八件、右のうち同欄に不在者投票の事由に該当する旨の疏明と認め得る記載の欠けているもの四百四十九件あり、結局請求書の記載だけについてみると、合計九百六件の多数にわたり瑕疵のあるものであることが明かである。なお右不在者投票の事由については、原告等主張のようにその存在が極めて顕著でその証明又は疏明をまつまでもないと認められるものはない。(被告等主張のその余の乙各号証の請求書その他の文書の存否又は請求書証明書等の記載の点についてはしばらく判断を省略する)。

さて右の請求書が、原告等主張のように請求又は疏明の文書に該るものでないことは前に説明のとおりである。原告等は、右請求の要件は、適法な証明書の提出があつた場合のほか、それぞれ請求者の口頭の疏明により又はその口頭の疏明と請求書の記載とを併せ採用して、これを認めたものであると主張する。そこでこの点について判断するに、

(1) 証明書の記載に不備の点があつて、不在者投票の事由に該当する旨の証明書として不適法なものである場合、例えばこの記載の事由が不在者投票の事由に該当せず又は証明書若しくは被証明者の記載を欠く等の場合においては、その不備の点を請求者の口頭の疏明によつて補い、これと証明書と相俟つて該当事由を証明又は疏明することはできないものといわなければならない。右の場合に不適法な証明書が適法化するものでないことはいうまでもない。従つて前記(2)の場合において口頭の疏明を併せ採用した趣旨が右の趣旨でされたものとすれば、その証明又は疏明があつたものということはできないものである。尤も右の場合においても、証明書を使用しないで別個に口頭の疏明をしうることは勿論であり又不適法な証明書であつてもその存在することを疏明するためにこれを使用する場合も考えられないことはないが、これらの場合は結局疏明による場合にほかならないから、先ず証明書を提出することができない事由についてこれを疏明することを要するものであることはいうまでもない。原告等主張の前記の場合がこの趣旨でされたものであるとすれば、その疏明の有無については次に判断するニおりである。

(2) 原告等主張の口頭の疏明の有無についてみるに、証人桜井一郎の証言により成立を認める乙第九百三十一号証、証人佐伯春夫(第一回)、鎌田哲男の証言により成立を認める乙第九百三十二号証の各記載、証人茂手木宮男、鎌田哲男、米野久太郎、井上薫、桜井一郎の各証言によると、請求者に疏明を求めたことはこれを認め得るけれども、それによつて疏明事由を認めるに足る程度の疏明のあつたことについては、これに関する右記載及び証言部分は、前記認定の諸事実、前記認定の乙各号証の記載、証人蜂谷恒平(第一、二回)、佐伯春夫(第一、二回)、佐藤千代人の各証言、右乙第九百三十一、二号証のその余の記載部分等に照し到底これを採用することができない。成立に争のない甲第十四号証(不在者投票に関する調書)によつても同じく右に照し、未だ右事実を認めるに足らない。他にこれを認めるに足る証拠はない。却て前記認定の諸事実とこれらの証拠とを綜合すると、右疏明は結局請求書記載の程度においてされたに過ぎないものと認めざるを得ないのである。右請求書は、疏明のための文書として作成されたものではなく又口頭による疏明についてその適法に行われたことを記録化することは義務付けられたものではないのであるけれども、他に疏明のあつたことを認めるに足る証拠のない以上、請求書の記載によつてこれを認めるのほかはないからである。そして右請求書の記載によれば、著しく不備な点があることは前に認定したとおりであるから、右疏明は結局少くとも右認定の分についてはなかつたに帰するものといわなければならないのである。

右の次第で原告等の右主張はこれを採用することができない。原告等は疏明の採否は選挙管理委員会の委員長の決定するところでその専権に属するものであるから、委員長において疏明ありと判断し、投票用紙等を交付し、これによつて不在者投票の行われた以上、その疏明の有無を争い、右交付手続に違法があるものということはできない旨主張するけれども、委員長において違法の判断をし投票用紙等を交付してこれによつて不在者投票が行われた場合においては、右交付手続は選挙の管理執行に関する規定に違反するものであることが明かであるから、これを争い得るものといわなければならない。又原告等は、右投票用紙等の交付手続の違法は、それによつて行われた投票の数が確定する限り、その個々の投票の効力に影響を及ぼすものに止り、選挙無効の原因とならない旨主張するが、右違法は選挙の管理執行に関する規定に違反するものであつて、それが選挙の結果に異動を及ぼす虞のあるものであることは次に述べるとおりであるから、これを単に個々の投票の効力に影響を及ぼすものに止るものということはできない。

以上により本件不在者投票については前記認定のとおり九百六件に及ぶ違法があり右違法は選挙の管理執行に関する規定に違反するものであるが、右は選挙の結果に異動を及ぼす虞のあるものであることは、この点に関する被告等主張のとおりである。しからば本件選挙はその他の点につき判断するまでもなくその全部が無効であるといわなければならない。

以上のとおりであるから、被告が被告補助参加人等の訴願につき、仙台市選挙管理委員会の決定を取り消し、本件選挙を無効とする旨の裁決をしたのは相当であつて、右裁決の取消を求める原告等の本訴請求はその理由がない。よつて原告等の本訴請求を棄却すべきものとし、訴訟費用及び補助参加費用の負担につき民事訴訟法第八十九条、第九十三条、第九十四条、第九十五条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 村木達夫 石井義彦 上野正秋)

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